入国審査で「What's the purpose of your visit?」と聞かれ、頭の中で「目的、purpose、観光はsightseeingだったか」と変換しているうちに、係官はもう次の質問に移っている。英会話を独学で始めようと思うきっかけは、たいていこういう数秒間です。
独学で話せるようになるかと聞かれれば、なります。ただし、話す練習を「誰かと会話すること」だけだと考えないでください。会話は、一人で声を出してきた時間が積み上がった結果として起きるものです。英会話スクールに通っても、一人あたりが実際に話している時間は思ったより短いものです。独学の弱点は相手がいないことですが、練習の大部分は相手がいなくてもできます。

英会話の独学が難しく感じる理由
文法が分からないから話せない、と考える人は多いのですが、私の見るかぎり原因は別のところにあります。
一つ目は、頭の中の翻訳です。英語を聞く、日本語に訳す、日本語で答えを考える、英語に直す。学校で英文和訳と和文英訳を何年も練習してきたので、この回路がとても太くなっています。会話の速さに、この四段階は間に合いません。
二つ目は、正解を探す癖です。テストには正解が一つしかありませんでした。会話では「I'm tired.」でも「I'm exhausted.」でも「Long day.」でも通じます。正解を探しているうちに沈黙が長くなり、その沈黙がさらに焦りを生みます。
三つ目が、恥ずかしさです。英語の授業で、間違えたことを褒められた記憶のある人はあまりいないでしょう。発音が日本人っぽいと思われるのが怖い、同僚の前で間違えたくない。気持ちはよく分かります。ただ、英語を外国語として話している人は世界中に大勢いて、その多くは自分の国のなまりのまま平気で仕事をしています。聞き手が気にしているのは、なまりではなく、話が通じるかどうかです。
中学英語で本当に話せるのか
かなりの部分は話せます。日常会話の文の多くは、中学で習う文型でできています。足りないのは文法ではなく、会話をつなぐための決まった言い回しです。次の表の表現を丸ごと覚えておくだけで、黙り込む場面はぐっと減ります。
| 英語 | 使う場面 |
|---|---|
| Sorry, could you say that again? | 聞き取れなかったとき |
| Could you speak a little more slowly? | 相手の話が速すぎるとき |
| What do you mean by ...? | 相手の言葉の意味が分からないとき |
| How do you say ... in English? | 言いたい単語が出てこないとき |
| Let me think. | 考える時間がほしいとき |
| I'm not sure, but I think ... | 自信はないが意見を言うとき |
| That makes sense. | 相手の説明に納得したとき |
中でも「Let me think.」は、気まずい沈黙を「考え中」に変えてくれる便利な一言です。黙り込むより、ずっと感じよく聞こえます。
カタカナ発音から抜け出す順番
目標は英語話者そっくりの発音ではなく、一度で聞き取ってもらえる発音です。そのためには、直す順番があります。
まず、余計な母音を足さないこと。deskは「デスク」ではなく、kの後ろに「ウ」はありません。andも「アンド」ではなく、最後のdはごく軽く、ほとんど聞こえないこともあります。カタカナの語尾についてくる「ウ」や「オ」を削るだけで、通じやすさははっきり変わります。
次に、強く言う場所を守ること。英語では単語の中の一か所を強く、長く言います。bananaは真ん中のnaを強く、hotelは後ろのtelを強く言います。カタカナの「バナナ」「ホテル」のように平らに言うと、一つひとつの音が正しくても通じないことがあります。

lとr、thの区別は、その後で十分です。会話では前後の文脈が助けてくれるので、レストランで「I'd like rice.」と言ってシラミ(lice)の注文だと思われることは、まずありません。直せるに越したことはありませんが、限られた練習時間は、先にリズムに使ったほうが効果があります。
和製英語にも気をつけてください。「I live in a mansion.」と言えば、相手は大邸宅を想像します。日本の「マンション」はapartment、イギリス英語ならflatです。こうした落とし穴は英単語の覚え方の記事に表でまとめました。



