英語の独学を何から始めるかで迷っている人に、私はいつも同じことを言います。文法書の1ページ目からではなく、耳と口から始めてください。中学と高校で英語を勉強してきた人なら、単語も文法もゼロではありません。足りないのは知識ではなく、聞いた英語をその場で理解し、知っている英語を声に出す練習の量です。
具体的には、最初の3か月は毎日30分を、短い文を聞いてまねして言う練習と、少しだけ書いて確かめる作業に使います。文法書は、言いたい文が組み立てられなかったときに開く辞書だと思ってください。初日に参考書を3冊買い込み、1冊目の第2章で止まる。独学でいちばんよく見かける挫折の形がこれです。
学校英語で身についたもの、身につかなかったもの
日本の学校英語は、読んで、訳して、文法問題を解くための英語でした。長文を和訳し、並べ替え問題を解き、「第5文型」や「関係代名詞の非制限用法」といった用語を覚えました。受験という目的に対しては、よくできた仕組みです。そのおかげで多くの人は、英文をゆっくり読めば意味が取れますし、数千語の単語に一度は触れています。
一方で、30人、40人の教室で一人ひとりが英語を口にする時間は、ほんのわずかでした。正解が一つしかない問題に慣れたせいで、「間違えたら恥ずかしい」という感覚まで一緒に身につけてしまった人も多いはずです。英語で話しかけられると、まず頭の中で日本語に訳し、日本語で答えを考え、それを英語に直す。この三段階の変換をしているうちに、会話は先へ進んでしまいます。
つまり大人の独学は、ゼロからの出発ではありません。読む力という貯金を、聞く力と話す力に両替していく作業です。そう考えると、手をつける順番も自然に決まります。
日本語話者が英語でつまずく4つの場所
lとr、th、そしてカタカナの母音
rightとlight、riceとlice、correctとcollect。日本語のら行の音はlともrとも違う一つの音なので、この区別に苦労するのは当然です。thも同じで、thinkが「シンク」になればsink(流し台)に聞こえますし、three(3)はtree(木)と紛れます。
ただ、私はlとrより先に直すべきものがあると考えています。カタカナが足してしまう余計な母音です。strikeは英語では1音節ですが、「ストライク」は5拍あります。McDonald'sは、英語話者の耳には「マクドナルド」とはほとんど別の単語です。単語の中で強く言う位置も大切で、hotelは後ろのtelを強く言わないと通じにくい。音の一つひとつより、リズムのずれのほうが、聞き返される原因になりやすいのです。
語順
「私は昨日、駅で古い友達に会いました」は、英語では「I met an old friend at the station yesterday.」です。日本語では動詞が最後に来ますが、英語では主語のすぐ後に来ます。最初の数か月は、文を後ろから組み立て直しているような感覚が続くでしょう。この感覚は、規則を読み返しても消えません。短い文を何百回も声に出して、ようやく薄れていきます。
冠詞と複数形
日本語には「a」も「the」もなく、名詞の単数と複数も普通は区別しません。「I like dog.」と言うと、動物の犬ではなく、食べ物としての犬の肉が好きだと聞こえかねません。犬好きを伝えたいなら「I like dogs.」です。冠詞の間違いで会話が止まることはめったにありませんが、仕事のメールでは目立ちます。
主語
「雨が降っています」は「It's raining.」。「行きます」には、誰が行くのかを足す必要があります。日本語は主語を省くのが自然な言語なので、主語を毎回置くという習慣そのものが練習の対象になります。
英語の独学は何から始めるか:最初の3か月の計画
1日30分を前提にした計画です。忙しい日は15分でもかまいませんが、ゼロの日はなるべく作らないでください。
- 1週目:今の位置を知る。 「She doesn't like coffee.」を見てすぐ声に出して言えるか、「I have never been to Canada.」を聞いて意味が取れるかを試します。どちらも怪しければA1から、すらすらいけるならA2から始めます。
- 2〜4週目:中学英語を音で入れ直す。 新しい単語は1日10個まで。単語だけでなく、その単語を使った短い文を聞き、止めて、まねして言います。目で読めば分かる文を、耳で聞いても分かる状態にするのがこの時期の仕事です。
- 5〜8週目:自分の文を作る。 仕事、家族、住んでいる町、休日の過ごし方について英語の文を50個作り、何も見ずに言えるようにします。会話で最初に必要になるのは、教科書の例文ではなく、自分のことを説明する文です。
- 9〜12週目:相手のいる英語に触れる。 短いチャット、オンラインの会話、好きなドラマのワンシーンを英語字幕で繰り返し見るなど、自分では予想できない英語を毎日少しずつ入れます。
30分の内訳は、復習10分、新しい内容10分、声に出す練習10分が目安です。復習を最初に置くのがこつです。新しいことのほうが楽しいので、後回しにされるのはいつも復習だからです。単語の復習の具体的なやり方は英単語の覚え方の記事に、話す練習のメニューは英会話を独学で身につける方法に書きました。
どのくらいで話せるようになるか
ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)と英検の対応を並べると、おおよそ次のようになります。学習時間は、ケンブリッジ英語検定(Cambridge English)が示している、ゼロから学んだ場合の指導つき学習時間の目安です。
| CEFR | 英検の目安 | この段階でできること | ゼロからの学習時間の目安 |
|---|---|---|---|
| A2 | 準2級 | 買い物や道案内、自分の仕事を簡単に説明する | 約180〜200時間 |
| B1 | 2級 | 旅行中のたいていの場面、身近な話題で会話を続ける | 約350〜400時間 |
| B2 | 準1級 | 会議で意見を言う、ニュースの大筋をつかむ | 約500〜600時間 |
毎日30分なら、1年で約180時間です。学校英語の貯金がある人は、読む力と語彙では表より先に進みますが、話す力はたいてい遅れてついてきます。私の感覚では、毎日30分を続けた場合、身近な話題で会話がなんとかつながるB1の入り口まで、早い人で1年、普通は1年半ほどです。「3か月でぺらぺら」という広告は、その3か月の前に何年分の貯金があったのかを書いていません。
会社でよく求められるTOEIC L&Rは、その名のとおり聞く力と読む力のテストで、話す力は測りません。スコアは上がったのに会議で発言できない、という悩みはここから来ています。スコアが必要なら試験対策は別に組み、話す練習は話す練習として、毎日の30分に必ず入れてください。
なぜ日本語で英語を学ぶほうが近道なのか
よく聞く助言に「英語は英語で学べ」というものがあります。B1を超えたら、私も賛成です。けれども最初の段階で英語の説明を英語で読むと、内容を理解する前に、説明文を解読するだけで力尽きてしまいます。冠詞がなぜ必要なのか、なぜ主語を省けないのか。こうした疑問は、日本語との違いとして日本語で説明されたほうが、一度で腹に落ちます。
Qlangoは、スロベニアの小さな会社が2017年から作っている語学アプリで、コースを追加するときに「学ぶために使う言語」を選べます。英語のコースで日本語を選べば、訳も説明も日本語で出てきます。英語はA1からC2まで、イギリス英語とアメリカ英語の両方があります。レッスンは数分で終わる短さで、覚えた単語は忘れかけたころに復習として戻ってきます。単語や例文はAIで生成した音声で聞けて、速度も落とせるので、rightとlightの違いをゆっくり確かめることもできます。ほかに学べる言語とレベルは対応言語の一覧にあります。
独学が止まりやすい人の共通点
挫折の理由は、意志の弱さより計画の立て方にあることがほとんどです。止まりやすい人には、次のような共通点があります。
- 初日に「毎日2時間」と決める。3日目に残業が入り、計画ごと崩れます。
- 発音が完璧になるまで話さないと決める。その日は来ません。
- 教材を次々に替える。結果として、どの教材も最初の数章だけが詳しくなります。
- 記録をつけない。進んでいない気がしてきて、それがやめる理由になります。
逆に、短くても毎日続け、先週の自分と比べている人は、途中で何日かサボっても戻ってきます。仕事と両立しながら学び直す人向けの時間の作り方は、社会人の英語学び直しの記事で詳しく書きました。
今日やることは一つだけです。Qlangoで英語のコースを追加し、学ぶために使う言語に日本語を選んで、A1の最初のレッスンを開いてください。知っている単語ばかりに見えても、音を聞いて声に出すと、思いがけないところでつまずくはずです。そのつまずいた場所から始めれば、遠回りはしません。



