中国語の独学に何年かかるか、という質問には、二つの答えがあります。読むだけなら、日本人は驚くほど速く進みます。聞いて話すとなると、話はまったく別です。
新聞の見出しはなんとなく意味が取れるのに、店員に「要袋子吗?」(袋は要りますか)と聞かれると固まってしまう。日本人の中国語学習者に多いのは、この状態です。毎日30分から1時間の独学で、日常会話の基礎(CEFRのA2)まで1年前後、仕事でもある程度使えるB1からB2のあたりまで2〜3年。これが現実的な目安だと私は考えています。読む力が先に伸び、耳と口が後から追いかける形になります。
中国語の独学で日本人が有利なところ
最大の利点は、もちろん漢字です。银行(銀行)、电话(電話)、经济(経済)、学生。形が少し違っても、意味はほぼそのまま分かります。英語話者が何年もかけて覚える文字の多くを、日本人は最初から知っているわけです。
文法も、ある意味では楽です。中国語には動詞の活用がなく、名詞の単数・複数の変化もありません。「我喝咖啡」(私はコーヒーを飲みます)のように語順は英語と同じく主語、動詞、目的語の順なので、学校で英語を学んだ人なら抵抗は少ないはずです。過去や完了も、動詞の形を変えるのではなく、「了」や「过」、時を表す言葉で示します。
簡体字と、同じ漢字で意味が違う言葉
中国本土で使われているのは簡体字で、日本の漢字とは形が違うものがあります。书(書)、车(車)、门(門)、说(説)、买(買)、卖(売)、电(電)、东(東)、饭(飯)。最初は戸惑いますが、言偏が讠に、門が门に、車が车になるといった簡略化のパターンを覚えると、急に読めるようになります。
もっと注意が必要なのは、同じ漢字なのに意味が違う言葉です。
| 中国語 | 中国語での意味 | 日本語の感覚で読むと |
|---|---|---|
| 手纸(shǒuzhǐ) | トイレットペーパー | 手紙は中国語では「信」 |
| 汽车(qìchē) | 自動車 | 蒸気機関車のことではない |
| 走(zǒu) | 歩く、出かける | 「走る」は「跑」 |
| 丈夫(zhàngfu) | 夫 | 「丈夫な」の意味ではない |
| 新闻(xīnwén) | ニュース | 新聞は「报纸」 |
| 大家(dàjiā) | みなさん | 大家(おおや)ではない |
| 勉强(miǎnqiǎng) | 無理に、しぶしぶ | 勉強は「学习」 |
| 先生(xiānsheng) | 男性への敬称、夫 | 先生は「老师」 |
「手纸」が欲しいと言われて便箋を差し出すと、少し気まずいことになります。
学ぶのは、どの中国語か
ひと口に中国語と言っても、地域によって話されている言葉はかなり違います。独学で最初に学ぶのは、中国本土の標準語である普通話、いわゆる北京語が基本です。香港などで話される広東語は、漢字は共通していても発音がまったく違い、普通話を学んでも広東語の会話はほとんど聞き取れません。台湾の中国語は普通話とほぼ通じますが、文字は繁体字です。どこで誰と話したいのかを最初に決めておくと、教材選びで迷わずに済みます。
声調とピンイン:独学でいちばん時間を使うところ
中国語の音節には声調があり、同じmaでも、mā(妈・母)、má(麻)、mǎ(马・馬)、mà(骂・ののしる)と四通りの意味になります。日常でいちばん困るのは、mǎi(买・買う)とmài(卖・売る)でしょう。声調を間違えると、買いたいのか売りたいのかが逆になります。
声調のほかにも、日本語にない音がいくつもあります。
- 息の強さで区別する子音: 中国語のbやdは、日本語の「ば」「だ」のような濁った音ではなく、息を抑えて出す音です。pやtは強く息を出します。日本語の耳は濁るかどうかで聞き分けようとするので、ここで混乱します。
- そり舌音: zh、ch、sh、rは、舌先を上に反らせて出します。
- -nと-ng: fàn(饭・ご飯)とfàng(放・置く)。日本語の「ん」は一種類なので、聞き分けにくい音です。
- ü: 「イ」と言うときの舌の位置のまま、唇を「ウ」の形に丸める音で、lǜ(绿・緑)などに出てきます。
単語は、最初の日から声調と一緒に覚えてください。漢字の意味が分かると、つい音を後回しにしたくなります。それが、読めるのに聞き取れない日本人学習者を大量に生んでいる原因です。ピンインにカタカナを振るのもやめましょう。「シー」と書いた瞬間に、xīとshīとshìの違いは消えてしまいます。3声が二つ続くと前の音節が2声に変わる、といった声調の変化もありますが、これも規則として覚えるより、你好(nǐ hǎo)が「ní hǎo」と聞こえることを耳で確かめるほうが早いはずです。
中国語の独学は何年かかるか:段階ごとの目安
アメリカ国務省の外交官養成機関(FSI)は、中国語(北京語)を、英語話者にとって習得に最も時間がかかるグループに入れています。これは英語を母語とする人向けの目安で、日本語話者についての公式な数字はありません。日本人は漢字の分だけ読む力で大きく先行しますが、発音と聞き取りでは、英語話者とほぼ同じスタートラインに立っています。
毎日30分から1時間を前提にした目安です。
- 最初の1か月: ピンインと声調。数字、あいさつ、自己紹介。
- 3か月: 買い物、注文、道を尋ねるといった短いやりとり(A1)。
- 1年前後: 身近な話題での会話、簡単な文章の読み書き(A2)。
- 2〜3年: 旅行や仕事の場面で、ある程度まとまった話ができる(B1〜B2)。
試験で目標を立てるなら、HSK(漢語水平考試)や、国内の中国語検定試験(中検)があります。
初心者の最初の3か月
- 1〜2週目:ピンインと声調だけをやる。 地味ですが、ここを飛ばすと後で何倍もの時間を払うことになります。四つの声調を自分の声で録音し、お手本と聞き比べてください。
- 3〜6週目:数字、時間、あいさつ、自己紹介。 「我叫田中」(田中といいます)、「我是日本人」(私は日本人です)、「多少钱?」(いくらですか)。数字は買い物でも時刻でもすぐに使います。
- 7〜12週目:量詞と基本の文型。 一个人、一本书、一杯咖啡、一张票。日本語の「一冊」「一枚」に近い仕組みなので、考え方には慣れているはずです。そこに、疑問の「吗」と、完了や変化を表す「了」を加えます。
覚えた単語の復習には、英単語の覚え方の記事で紹介した間隔反復がそのまま使えます。
日本語で中国語を学ぶ意味
中国語の教材の多くは、英語話者向けに作られているか、中国語だけで書かれています。英語を通して学ぶと、ピンインの説明は英語の音を基準にしたものになり、日本人にはかえって分かりにくくなります。簡体字と日本の漢字の比較も、当然ながら英語話者向けの説明には出てきません。
Qlangoでは、コースを追加するときに学ぶための言語として日本語を選べるので、中国語(北京語、簡体字)をA1からB2まで日本語から学べます。単語と例文はAIで生成した音声で聞けて、速度を落とせるので、mǎiとmàiの違いを納得がいくまで聞き直せます。聞いて書くディクテーションは声調の聞き取りの練習になり、PremiumのAIの先生には「なぜここに了が必要なのか」といった質問を何度でもできます。詳しくはよくある質問と対応言語の一覧をご覧ください。
よくある質問
繁体字と簡体字、どちらから学ぶべきですか?
中国本土やシンガポールで使うなら簡体字、台湾や香港なら繁体字です。迷うなら簡体字から始めてかまいません。日本の漢字には繁体字に近い形も多いので、あとから繁体字に移るのは難しくありません。
テキストは何冊必要ですか?
1冊で十分です。音声がついていて、ピンインと声調を丁寧に説明しているものを選び、最後まで終わらせてください。何冊も手を出すより、1冊を3回繰り返すほうが身につきます。
発音は独学で身につきますか?
身につきます。ただし、自分の声を録音して、お手本と聞き比べることが条件です。話しているときの自分の声調は、自分ではほとんど聞こえていません。
韓国語と中国語、どちらが日本人に向いていますか?
韓国語は文法が、中国語は漢字が日本語に近い言語です。どちらも向いています。迷っているなら、韓国語の独学の記事も読んで比べてみてください。
今日はピンインの表を開いて、maの四つの声調を自分の声で録音してみてください。聞き返して四つが区別できれば、それで十分な一日目です。準備ができたら、Qlangoで中国語のコースを追加し、学ぶための言語に日本語を選んで、A1の最初のレッスンへ進んでください。



